3.11市民ネット深谷のブログ

脱原発をメインにメンバーが気の向くまま書きます。

東京ブラックアウト

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今年もよろしくお願いします。
311市民ネット深谷は、今年も地域に根ざし、地域から脱原発
声を上げ続けます。

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「東京ブラックアウト」若杉 冽(講談社 

福島第一原子力発電所の事故に伴う大規模な放射能汚染により、未だに15万人あまりの人たちが避難しています。放射能汚染については、福島だけの問題ではなく、広く関東平野も汚染され、あちこちにホットスポットが出現しています。このような状態のまま年が明け、4年が経とうとしています。

本書は「原発ホワイトアウト」の続編ですが、フクシマで覚醒できなかった日本人への警告書と言えるでしょう。秩父人のダニーさんではないですが、「覚醒せよ日本人!」と叫びたくなります。

巻頭に、旧西ドイツ大統領ワイツゼッカーの「過去に目を閉ざす者は、現在に対しても盲目となる」との有名な言葉が記されています。今の日本の政治風景やマスメディア、電力業界などは、まさに盲目的に再稼働に突き進んでいます。そこには、フクシマの反省もなく、電力の安定供給でも、電力コストの低減化でもないことは明らかです。本書曰くの「電力モンスターシステム」による錬金術と、そこから編み出される潤沢な資金をバックにした政治の私物化にあります。中央のキャリア官僚は、出世と権益確保にあけくれ、行政は彼らの論理でしか仕事をしません。

作者はキャリア官僚だそうです。私もこの世界には若干接触がありまして、彼らの思考方法や政治的な動きはよく分かります。しかし、中には市民目線で仕事をしている官僚もいなくはないのですが、本書に登場する役人たちは酷いですね。原発行政を進めている人たちは、このような者たちなのでしょう。絶望的になります。

内容に若干触れますと、原因と結末の想像力は稚拙な感じは否めないのですが、柏崎刈羽原発が爆発してしまい、高濃度の放射性プルームは関東地方を襲い、群馬、埼玉、東京と人が住めなくなってしまいます。フクシマの汚染の比でない高濃度汚染が、何の前触れもなく襲ってくるのです。停電により情報が届かない人たち、子どもたちは被ばくしてしまいます。

印象的なシーンがあります。

北風で有名な群馬県高崎市では、幼い兄妹が久々の雪に歓声を上げていた。

「お兄ちゃん、雪が降ってきたよ!」

「本当だ、テレビもまだ点かないし、ゲームの電源も切れているから、庭で遊ぼうよ」

「雪だるまつくろう、雪だるま」

(略)

その両親が留守のあいだ、子ども二人は、庭で思う存分に遊んでいる。

「今日の雪はずいぶんと黒っぽいね、お兄ちゃん」

「そうだね、ちょっと黒砂糖みたいな色だね」

「ちょっと舐めてみようか、もしかしたら甘いかも・・・・・」

「うん」

兄と妹は口に雪を入れた。しかし、予想に反して、金属と酸の入り混じった味がする。

「・・・・おいしくないね」

ペッ、ペッ、と二人はすぐに吐き出した。

(略)

数時間後、黒い雪だるまが完成する頃に、急性放射性障害で毛髪が抜け始めることを、この二人はまだ知らない。両親が帰宅するときには、子どもの髪の毛は、ほとんど抜けてしまっているだろう。(第9章 黒い雪の一部を引用)

政治家、高級官僚、電力業界幹部たちの家族は、すでに海外に避難しています。国の機関や大企業は東京から関西に、そして天皇も皇居から京都御所に避難します。そんな事態になっても、電力業界や既得権益の権化となった政治家、官僚たちは、発送電分離を阻止すべく暗躍します。

作者は、最後の最後に天皇に期待しますが、そうはうまくいきません。これは山本太郎園遊会の手紙(直訴)からきているのですが、この電力モンスターシステムには、天皇も太刀打ちできません。

最後にこんな一文があります。

家が朽ちてもシロアリは生き残る。日本が放射能汚染にまみれても、電力マネーに群がる政治家や官僚は生き残る・・・・・。

そして、今上天皇への請願の送付先が書かれています。今や天皇がリベラルに見える時代です。最後の拠り所が天皇とはと思うのですが、作者は、それだけ現状への絶望感、閉塞感が強いのでしょう。

本書に書かれた内容は、誰しも想像力を働かせれば分かることです。一人でも多くの人たちに読んでもらいたい一冊です。(仁)