3.11市民ネット深谷のブログ

脱原発をメインにメンバーが気の向くまま書きます。

放射能汚染地図の今

著者;木村真三(放射線衛生学者・獨協医科大学准教授)
発行;講談社

福島第一原子力発電所の事故に際し、「ただちに影響はありません」という枝野官房長官の言葉があまりにもむなしく、私は、福島の放射能汚染はどうなっているのか、そして、自分が住んでいるこの場所の汚染度合いはどのくらいかと、事故の成り行きとともに、歯がゆい思いをしていた。そんな中、NHKのETV特集で「ネットワークで作る放射能汚染地図」が放映された。この本の著者である、木村さん、放射線測定の権威だという老齢な岡野さん、そして京大の今中さんだったか、浪江町の赤生木(あこうぎ)地区での測定で、あまりにも高い放射線量に唖然としていた彼らの映像が印象深く、やはり半端じゃないくらい汚染されているのだと確信した。このシリーズは、何回か続編が放映されたが、放射能汚染と向き合わざるを得なくなった私たちに、必要な情報が隠されているなかで、真に必要な情報を提供してくれたと思う。

その木村さんだが、福島第一原子力発電所の1号機が水素爆発した2011年3月12日の翌日、国の研究機関に辞表を提出し調査を開始したという。そして、「私は2013年6月に福島県内に家を借り住民票も福島県に移して正式に福島県人になった。いまだに解決されていない問題に、長期的に取り組むためである。放射線衛生学の専門家として言えることは、福島第一発電所事故は終わっておらず、ここに住む人々や避難した人々は少なからず心身の痛みや不安を抱え、いまだに真相のわからない被害に立ち向かっているということだ。そして、この問題は、地元の友人の言葉を借りれば「核害=核の公害」であり、いつまで続くか分からない。だからこそ、腰を据えて向き合い検証してゆく必要がある」と、ご自身の立ち位置を明確にしている。

読み進めていくと、改めて私たちが押さえておくべき事実が明らかにされる。3月14日午前11時に3号機の水素爆発があり、翌15日午前10時過ぎ、木村さんが住んでいた東京台東区のマンションのベランダで空間線量率を測ると1マイクロシーベルトを超えていた。東京でこの数値なら福島ではもっと高いはずだ、おそらく地元の人たちは高い放射線量を知らずにいる。健康被害がでる可能性もあるとして、午後には福島に向かったという。

最初の爆発の前に、大熊町浪江町モニタリングポストの値が、なんと1.59ミリシーベルトを記録していたという。これはベントによって放射能を排出させたことによるのだが、住民には知らされなかった。SPEEDIもそうなのだが、住民を守るための情報が隠されてしまう。先ほどの赤生木地区の値だが、木村さんたちが計測したデータは住民に知らされた。住民たちは、その値をもとに協議し、避難することを決めた。それまで、国などの機関が調査に来ていたが、線量を知らせることが無かったらしい。

第三章の放射能がもたらす分断は、悩ましい問題だ。想像はしていたが、やはり大きな陰を落としている。木村さんは、無かったことにしようとする危険性については言及しているが、問題提起にとどまっている感じだ。言えることは、放射能汚染という現実が、人間の関係性までもズタズタにしてしまうという事実だ。これを読むだけでも原子力発電を続けたいという人たちが、如何に無責任で犯罪的であるかということが分かる。

木村さんは、いわき市の志田名地区で住民による住民のための汚染地図づくりの指導や、市民科学者養成講座を主催している。特に二本松市では、市のアドバイザーを勤めるとともに、NPO法人放射線衛生学研究所」と彼の所属する獨協医科大学国際疫学研究室の分室を設けて、現地で活動し続けている。本書の帯に書かれているが、福島で被災者とともに闘い続ける科学者の3年におよぶ真実の記録なのだ。

この本を読んで感じることは人それぞれと思うが、私は、放射能汚染された大地に住み生きるには、私たち一人ひとりが、自分を守るために、子どもたちを守るために、放射能汚染についてそれなりの専門家(プロの研究者ではない)になる必要があるということだと読み取った。(今仁
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