3.11市民ネット深谷のブログ

脱原発をメインにメンバーが気の向くまま書きます。

原発を止める人々 -3.11から官邸前までー 小熊英二 編著

「10.13 NO NUKES DAY」に、3.11市民ネット深谷は、従来の個人としてでなく、グループとして初めて参加しました。このことは、ツイッターやフェースブックですでにお伝えしたところです。デモ後(日比谷公園→東電→新橋→経産省→日比谷公園)、私たちは国会前スピーチエリアから少し下った国会前交差点に近い庭園入口付近で、コーヒータイムと洒落込んでいました。クレマチスさんが苦労して買い求めてきた温かいコーヒーのおかげで、デモ後の充足感に浸りながらスピーチを聴いていたというわけです。道を挟んで反対側のファミリーエリアも人がぞくぞく集まって来ていてスピーチやコールで賑やかでしたが、近くに設置されたスピーカーからは、国会前のスピーチがハッキリ聞き取れました。むしろ音が大きすぎるのか、事務局の人たちがあわてて調整したりしていました。この辺の配慮については、本書を読むと良くわかります。

国会前抗議の開始からまもなくでしたか、小熊英二さんが登壇して力のこもったスピーチをしました(イメージと違い少し驚きました)。次に登壇したのが作家の雨宮処凛(かりん)さんで、小熊さんのスピーチを受けて、冒頭「一番変わったのは小熊さんじゃないの」と笑いを誘いました。実は、小熊さんのことは、反原連と野田前首相との会談を仲介した大学の先生という程度の認識でした。インターネット中継された会談をあとで見たのですが、ちょっと斜に構えた長髪の彼は、首都圏反原発連合(以下「反原連」という)の代表者たちに隠れていましたが、存在感がありフィクサーのように映りました(この本を読むと全然違うのがわかります)。私はそれ以前から官邸前抗議行動に足繁く通っていたのですが、フィールドワークでもしているのか、ニヒルな風貌で、官邸前からぐみ坂を下り、経産省上の交差点を国会前エリア方面へ向かうルートやファミリーエリア付近を行き来する姿を時より見かけました。

この本は副題として、「3.11から官邸前まで」とあるように、3.11東日本大震災に伴う福島第一原子力発電所の事故を契機に、日本社会がどのように変わったのか、変わりつつあるのかを、変化を担う主体としての一般の人々の行動をリアルに描き出しています。オウム真理教事件のあと村上春樹さんが『アンダーグラウンド』で取った手法に似ているかなとも思ったりしたのですが、こちらの方がもう少し多面的で重層的になっています。

本書の構成は、まず官邸前抗議の主催者である反原連の主要メンバーとの座談会で、官邸前抗議行動に至る経緯が明らかになります。反原連は、強固な組織ではなく、リーダーもいません。同じ目的を共有した個人やグループが繋がったネットワークでしかないということです。

次に、様々な運動に取り組んで来た人たちが、どのように震災を迎え、どのように脱原発運動にかかわってきたか、50人の証言としてまとめられています。読み応えのある部分です。多くの方は、自分と重ね合わせて読まれるのではないでしょうか。実に様々な人たちが、率直に経緯やご自身の活動を語っており、まさに3.11以後の脱原発運動の実相が浮かび上がってきます。おそらく小熊さんが、世界に類を見ない運動と評価し期待を寄せている、核心的な部分ではないかと思われます。

それに続くのが、菅直人元首相へのインタビューと、小熊さんの分析です。この間行われた2つの国政選挙結果につても示唆に富んだ分析を試みていて納得もします。大飯原発の再稼働に際して、官邸前に何万人もの人たちが、動員されたのではなく、ほとんどが個人の意思で集まりぐみ坂を埋め尽くしましたが、彼は「総じて製造業中心の時代の仕組みがあらゆる部分で揺らぎ、雇用の流動化や格差が生じ、家族が不安定化していることは、多くの人が感じていた。そこへ震災と原発事故があって、日本社会は変わらなければいけないという感覚がさらに広がった。そうしたなかで、大飯原発の再稼働が、あまりにも旧態依然の手続き的なものと映る方法でなされたのである。」そのあとに、反原連の野間さんの言葉を引用して「3.11以降、国民の大部分は変わったのに、マスコミと政府、財界だけが変わらない」という認識は、抗議参加者の共通なものだったと。さらに、自由参加の多さと固定組織の不在、リーダーの不在は、ポスト工業化社会においては、人々の「自由」化とともに組織形態がモジュール化しネットワーク型に移行するという現象は、企業でも運動でも変わらない。この傾向は世界的なものだといいます。

おくらばせながらわが3.11市民ネット深谷も小熊先生に定義された、まさしく3.11以降の変わってしまった社会から産声を上げました。おそらく外部からは全くおかしなグループとしか見えないと思います。自立した個人が目的を共有して集うプロジェクトのようでもあります。このブログを読んだ皆さん、私たちと繋がりませんか。(今仁@市民ネット深谷)